【喜楽湯】番頭・中西可奈に聞く「銭湯で働くということ」

川口にある銭湯『喜楽湯』には、2018年11月から番頭として働いている女性がいる。北海道出身の中西可奈さんだ。

そもそも、なんで銭湯なの?
なぜ、縁もゆかりもなかった川口で?
ぶっちゃけ、銭湯で働くって大変じゃない……?

疑問を胸に開店前の『喜楽湯』に伺うと、爽やかな笑顔が印象的な可奈さんが出迎えてくれた。

 

健康になれる!? 銭湯という職場

▲銭湯の1日はお湯を沸かすことから始まる

 

――今日はよろしくお願いします! 早速なんですが、開店準備を見学してもいいですか?

はい! 今ちょうど薪をくべるので一緒に行きましょう。

 

――赤々と燃え上がってますね! これ、夏場は大変そう。

当然暑いし、重いです(笑)。
もっと体力つけたいんですよね。どうしても他の男性メンバーより力仕事には時間がかかるので、悔しくて。

 

――上京してすぐに未経験の銭湯業界に飛び込んだんですよね。生活リズムが一気に変わって、体調を崩しませんでしたか?

むしろ、すごく健康体になりました。
前職は飲食業だったのもあって、かなり不規則な生活だったんです。大好きな銭湯も、月に1〜2回しか行けなくて。

『喜楽湯』で働き始めてからほぼ毎日お湯に浸かっているので、顔色はよくなったし肩こりも軽減されたし、いいことづくめです。
薪くべで汗をかいても、お湯に浸かって疲れを癒せますしね(笑)。

 

――そうなんですか!! たしかに、めちゃくちゃ肌ツヤいいですね……羨ましい。

 

▲お湯を沸かしたら、サウナの準備をしたり、桶を洗って並べたりする

――そもそも昨年、『喜楽湯』で働き始めたキッカケは何でしたか?

もともと地元・札幌で銭湯をやるのが夢で、いつか北海道を出て銭湯修行しようと決意していたんです。そんなとき、昨年の10月に先輩のライブを観に上京したタイミングで偶然立ち寄ったのが『喜楽湯』でした。

「将来は銭湯をやりたい」と番台の人と話していたところ、『喜楽湯』がその前の日から求人を出していたことを知ったんです。

 

――前日!すごいタイミングですね!

翌日面接を受けたんですが、10分後には番頭として働くことが決まっていました(笑)。
今は『喜楽湯』に住み込みで働いているので、8秒で出勤できますね。

 

――この上ないアクセスの良さですね(笑)。可奈さんから見て、『喜楽湯』はどんな職場ですか?

同年代のバイトさんも多いので働きやすいですし、スタッフが8人いるのでしっかり休みも取れます。ただ、昼の12時頃から仕込みのために出勤して、帰りは深夜0時くらいになることもあるので、一般的な会社よりも職場にいる時間は長いと思います。

それでも、あっという間に1日が終わるのでそんなに働いている気がしないんですよね。番台に流れる時間はゆっくりなように思えるけど、実際は本当に早いんです。

 

銭湯で働くということ

▲いつもの法被姿で番台に座る可奈さん

――そもそも、銭湯に興味を持ち始めたのはなぜだったんでしょうか。

銭湯には小さい頃、親に連れられてよく行っていました。一人で通うようになったのは高校生になってからですね。

ある時、地元の『澄川温泉』が閉店することになったんです。職場の銭湯好きの友人と最終日に訪れてみたらテレビカメラが回っていて、若い女性というだけで執拗に取材を受けました。
それに対してふたつの意味で違和感と怒りを感じて。

 

――どんな風にですか?

最終日は常連さんがゆっくりお風呂を楽しむべき日なのに騒ぎ立てるような取材の様子と、なにより閉店を惜しむような声ばかり集めるなら、もっと早い段階で報道ができなかったのかな?と思って。閉店が決まってから取り上げても意味がないんじゃないかなって。

それをきっかけに、継承する人がいない銭湯をわたしが引き継いで、いつか銭湯を経営したいと思うようになりました。

 

――実際に銭湯修行を始めて、銭湯に対するイメージは変わりましたか?

いい意味で銭湯に対する憧れがなくなりました。設備の管理は大変だし、お金もかかるし、肉体労働だし。

これまでは築年数の経った「ゲキ渋銭湯」を引き継ぎたいと思ってきたけれど、渋ければ渋いほど管理にお金がかかることを知ったんです。それからは現実的な目線で「じゃあ、どういう物件がいいんだろう」と真剣に考えるようになりました。

とはいえ、私が『喜楽湯』に加わったのは『喜楽湯』が開業してから2年半後だったので、開業直後の苦労はもっとあると思います。薪の確保ひとつとっても、大変ですからね……。

 

▲お湯の温度を確かめる可奈さん

――前職は飲食業だったとのことですが、接客業という意味では番頭の仕事も同じ感覚なんでしょうか。違いはありましたか?

変わったのはお客さんの年齢層だけですね。そもそも「接客をしている」という感覚が私にはないんです。
前職も、今も、人としてお客さんと話しているだけ。仕事というよりは日常会話をしている感じ。

そもそも「おじいちゃん・おばあちゃん」という存在が大好きなので、おじいちゃんおばあちゃんに毎日会えるこの仕事は最高だと思っています。

 

――これまでの8ヶ月で、印象深い出来事はありますか?

お客さんに背中を流してもらったこととか、姉弟喧嘩で泣いていた男の子に手書きのイラストをプレゼントしたら泣き止んでくれたこととか……たくさんあります。
『喜楽湯』には番頭猫のタタミがいるんですが、ちょうどタタミのエサをネットで買おうとしていた時に常連さんがエサを大量に差し入れしてくださったりとか。「エスパーか!」と思いました(笑)。

 

――想像しただけで胸がアツくなります。

 

家族と銭湯経営したい!

▲「畳が好き」という可奈さん。番台猫の名前が「タタミ」だったことも『喜楽湯』で働く決め手になったとか

――これから可奈さんがやってみたいことはなんですか?

いろんな銭湯で修行したいと思っています。もちろん『喜楽湯』との出会いは奇跡的だったし、薪でお湯を沸かしている銭湯はそれほど多くないので毎日勉強になっています。

でも、一口に銭湯と言ってもガスで沸かしているところ、すべて手動でやっているところ、『喜楽湯』のように機械化されているところなど、さまざまなんです。

とにかく、いろんな設備でお湯を沸かせるようになりたい!

 

――なるほど……。いつもお湯に浸かるだけで、湯沸しの構造まで思いを巡らせたことがなかったです。

あとは、子どもが一人でも銭湯に入れるようになるイベントを考えています。気持ちいい銭湯マナーを覚えて、逆にお父さんやお母さんに教えてあげてほしいな!と思っています。

当初は2年間は修行しようと思っていたけれど、「銭湯」を学ぶには時間が足りなさすぎるんですよね。早く自分の銭湯を経営したいと焦る気持ちもあるんですが、機械の故障や設備の破損なども自分で修理できるようになりたいし、機械が苦手なのでそれも克服したいと思っていて。

だから、今は1年延長して3年後の独立を目指しています。

 

▲『喜楽湯』はサウナが無料。交代浴も楽しめる

――早く可奈さんのつくった銭湯に入ってみたいという気持ちと、いずれ『喜楽湯』から可奈さんが卒業してしまう寂しさとが半々です。自分でつくる銭湯はどんな風にしたいと思っていますか?

故郷・札幌で朝6時オープンの飲食店併設の銭湯をやります。リフォームは最低限にして、やっぱり銭湯特有の「渋さ」を大切にしたい。

手前味噌なんですが、私の家族はみんな人情味溢れる仕事をする人たちなんです。だから一緒に仕事がしたくて。
仕事前にひとっ風呂浴びて、2階の飲食店で母の作る朝ごはんを食べてもらう。
地元の若い子たちも、退職した父親世代もスタッフとして積極的に雇いたいし、異業種で働いている兄や姉とは銭湯とのコラボを実現したい。

こういう仕事をしたい、とあれこれ考えるのが本当に楽しいんです。

 

――聞いているだけで楽しみになってきました! 残りの修行期間で叶えたい夢はありますか?

「銭湯」に対して難しい・ハードルが高いと思っている人たちがまだまだたくさんいます。
銭湯に通っていると当たり前になっていることでも、銭湯初心者からしたら知らないことだらけ。
だからこそ、明文化されてこなかったような小さなことも、SNSでわかりやすく発信して、初歩的な知識を埋めていく役割を担いたいです。

 

――可奈さんの発信がキッカケで、銭湯ファンが一人でも増えてくれたらうれしいですね。

『喜楽湯』が銭湯初心者に優しい銭湯になれれば、『喜楽湯』を卒業して家の近くにお気に入りの銭湯を見つける人も出てくるでしょう?

そんな風に、銭湯の良さを実感する人を増やしていきたいですね。

 

愛に溢れた番台・可奈さん

▲夢を語りながら、つい涙ぐんでしまった可奈さん

 

終始、銭湯への愛を滲ませながら話してくれた、『喜楽湯』の番頭・中西可奈さん。
インタビューの終盤には、いろんな想いが溢れて涙もこぼれた。

お客さんへの愛、銭湯への愛、家族への愛に溢れる可奈さんが沸かすお湯は、今日も温かい。

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